深海の底から

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システムと物語の上下関係、意図的な艦娘ロストからのあれこれ

艦娘を意図的にロストする事に限んないけど、この手の話は、プレイヤーのマナーとかじゃなくて、システムの問題だと思うよ

 意図的なロストはともかくもめる。論じ合っている同士の話が噛み合わない。平行線を辿ってイライラして、最後にはお互い一歩も引かないバリケードから火炎瓶を投げ合って炎上している。そしてお互い言うのだ。「なんで楽しめないのだ」と。そろそろ終わらせたい。だからまとめてみた。

 誤解の無いよう、今回の記事における「物語」は以下のように定義いたします。

  • プレイヤーがゲームに没入することによって得た主観的体験や考察。なお、ゲーム内のシナリオは「システム」の中に入っているものとします

楽しいゲーム「システム」と楽しい「物語」

死んだマリオたちはどうなるのか

gigazine.net

 スーパーマリオは楽しい。

 そこの所否定する人はまあいないと思う。しかしこのゲームよくよく考えると不思議だ。なぜ奥行きが無いのだろう。なぜブロックにコインが仕込んであるのだろう。何より、マリオの機数とは何なのか。ワンナップキノコで何が増えているのか。死んだマリオたちがどこへ逝くのかという自分の中の「物語」を考えると夜は眠れる。だってそんなこと考えてもしょうがないだろう。ゲームを楽しめよ。うんその通り。いちいち考えていたらキリがない。RPG序盤の敵はどうして弱いんだろうとか。FPSはなんで時間が経ったら回復するんだろうとか。どうして無視して遊んでられるんだろうね。

楽しいゲームの「システム」は無精者

greens from the garden

 結局、プレイヤーにとって、ゲームとして楽しい「システム」と自分の中で持つ楽しい「物語」とは別腹というわけだ。

 「バイオハザード」ではハーブがあればどんな怪我でも治る。包帯を巻く必要もないし、止血剤を使用する必要も、輸血をする必要もない。緊急スプレーを一吹きして何が治るのか。ひょっとするとT-ウィルスはハーブで治るのではないのか。

 ゲームと言うのはかなり色々と簡略化されている世界である。複雑な回復アイテムを取り揃えてもしょうがないし、どう考えても普段生活するのに邪魔だろといった謎解きセキュリティが設置されていたりする。よくよく考えるとこんなおかしな話はないんだけど。

 でもそりゃそうだ。その方が楽しい。必要な所は複雑であれば楽しい。余計なところで複雑で不要な「システム」が重ねられたら楽しくない。頑張ってその辺りに挑戦した作品がある。RPGSDガンダム外伝 ラクロアンヒーローズ」だ。このゲーム。ゲーム開始地点付近の敵が強く、冒険の扉を使って簡単なところから攻略する。なるほど、RPGにありがちな魔王最初から本気出せよ感を頑張って消したのだ。キャラゲーだが普通におもしろいゲームであった。でも、後に続くRPGは、やっぱり魔王最初から本気出せよ「システム」が続く。

 そりゃま、そうだよね。不自然さよりも、ゲームが楽しければいいじゃない。そうだね、じゃあストイックに、ピーチ姫を救う目的なんて消してしまおう。敵だって記号でいいだろう。背景もいらないね。え、ちょっと、待って。あれ? 何でそんなに睨んでるの? 何でそんなに楽しくなさそうなの?

楽しい「物語」を育てる「システム」

 「スペースインベーダー」でなぜプレイヤーはインベーダーを倒しているんだろう。しかも一機で。軍隊とかいないんだろうか。うん、考えても仕方ない。ゲームを楽しもう。でもさ、もしここで地球を救うんだとか、あったらきっとこのゲーム、もっと楽しくならない?

 シューティングゲームの無駄に壮大で絶望的な設定やテキストストーリー(世界観)はこうして積み上げられた。シューティングゲーム自体が多く作られ、違いを出すためにも、ゲームを楽しくするためにも、たった一機で多くの敵に挑む。自分はそのパイロットだ。盛り上がる世界観を入れた楽しい「システム」から生まれた「物語」による楽しさによるツープラトン技。

 FM-TOWNS(覚えている人いるのかこれ)にライザンバーと いうシューティングがあった。私をシューティングにはめた作品だ。この作品の背景はこうだ。

 人々が安隠とした日常生活を貧っている時代。
 有史以来、地球から発せられる電波、光などあらゆる種類の電磁波は、3万光年を隔てた銀河系内絶対座標に巣くう『ゾウル・エンパイア』を呼び寄せてしまった。
 自分たち以外の如何なる存在も許さぬ彼等の侵攻は、瞬く間に地球全土を席捲し、人類を含む全生態系の崩壊は目前に迫っていた。
 最も高い逆転勝利の可能性はただひとつ。敵母星に直接侵入し、その中枢を破壊、すべての機能を停止させるしかない。墜落した敵アタック・デバイスを復元改造した『RT-X-32』、機体コード『エリミネート・スキャナー』は、勝率5千6百万分の1の戦いに今、挑む。

 熱い。無駄に熱い。

 何で単機なんだってシューティングと言うジャンルがそうなんだから仕方ない。でもそれを絶望的な世界観で香りづけしている。世界観は香りのようなものだ。味が良くても鼻が詰まっていたら料理の美味しさは減るように、世界観の欠けた「システム」は楽しくてもプレイヤーの中の「物語」が膨らまない。どうせやるならやっぱりお姫様や世界を救ったという体験が欲しいじゃないか。世界観が入ると楽しい「システム」は楽しい「物語」を生む。ちょうど焼きとうもろこしに醤油を塗るように。

  なるほど、「システム」に世界観を入れれば楽しくなるのか。じゃあもっと楽しくしよう。絶望的な世界観で、コンティニューなし残機はなし! どうだ、面白いだろう? あれ? 何でまたそんなに睨んでるの? 何でまたそんなに楽しくなさそうなの?

はじめにシステムありき

 間違ってはいけない。ゲームは楽しい「システム」あってのものだ。

 絶望的な世界観が入っていても、残機はないといけないし、コンティニューだってなくてはならない。マリオはたくさん死体を積み重ねなければならないし、世界でひとつのお手伝いロボットロックマンは花火大会ができなければならない。

 では何で皆それに文句を言わないんだろう。いや、だってそういうゲームだろ? さぁなぜそう思ったんだい? FPSやってて自動で体力回復してくれないとか、回復するのに手術するバイオハザードとかやってられるだろうか。楽しくないよね。きっと。

 マリオでヨッシーを乗り捨てることが半ばネタになっているけど、ヨッシーの気持ちを考えたことがあるのか。可愛そうだと思わないのか? そんなこと言われても、困ってしまう。そんな事こだわってたら、クリアできない。楽しくない。

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 命が幾つもある世界。ハーブでなんだって治せる世界。それは奇妙で珍妙だけど、楽しいからこそ。こまけぇこたぁいい。そう受け取ってくれる。え? それでいいの? いいんです。「システム」が楽しければ、プレイヤーは自分の中の「物語」との多少の齟齬くらい目をつぶってくれる。

メリットがあるならプレイヤーは自分の中の「物語」を無視しようとする

 デスルーラがまさにそれだ。本来敗北とはデメリットが伴うし、プレイヤーの中の物語との齟齬後もきたす。でもそれが瞬間移動できるといったメリットが上回るなら、じゃあ、死のうか。ひどい話だ。意図的に殺されるキャラクターの気持ちは考えているのか? 考えても仕方ない。色々とメリットが有るんだから。ここは目をつぶろうじゃないか。

 死ねばロード画面に戻されるとか、セーブリセットできないとか。気をつけてやらないと、キャラロストで今までの時間が無駄になるよというシステムもある。「や、り、な、おし! そっれ、や、り、な、おし!」。WizardryTRPGならキャラを作り直して一からだ。

ゲームポット、WIN「Wizardry Online」死亡したキャラクターが消滅する「ロストシステム」を公開 - GAME Watch

 >>や、り、な、おし! そっれ、や、り、なーー
 >>しかたない、使い捨てキャラで大事な育成キャラを守ろう
 >>ーーえ?

「システム」は「物語」より強い

メリットがあるならプレイヤーは自分の中の「物語」を無視しようとする
(大事なことなので二回言いました)

Infantry

 Wizardryは架空の世界がテーマだけど、史実をテーマにしたってそれは変わらない。

 艦これに限らず、第二次大戦をテーマとしたゲームは多い。シュミレーションの常として、ユニットのロストは付き物だ。だから虎の子のユニットを守るために、新規生産ユニットを捨て駒とするプレイングは良くある。

 「ワールドアドバンスド大戦略」というセガサターンシミュレーションゲームがある。このゲームは第二次大戦をテーマにかなり作りこんだ珠玉の逸品だ。漫画日本の歴史程度しか知識がなかった私は、日本軍で初めて最初のステージ、てっきり真珠湾かと思って現れた ノ モ ン ハ ン の文字に面食らったものだ。

 シミュレーションの常として、歩兵などのユニットが生産できるのだが、生産したてのユニットでもそこそこ戦えるのだ。となれば何が起こるか。

 我が精鋭のための捨て石となれ

 顔をしかめる人もいるだろう。しかし、日本軍戦車がまるで中盤以降連合軍ユニットに歯がたたない史実志向。強力な海空ユニットの使えないインパールマップや沖縄戦マップ。歩兵や砲兵を捨て石に使わないととてもではないがクリアはかなり困難になる。

  • 「システム」がユニットに熟練度を設定している以上、大事に育てたユニットに愛着を持ってしまい、使い潰すのに躊躇する。
  • 「システム」が史実をなぞっている以上、ミッドウェー海戦マップで絶対勝ってやろうと思ってしまう。
  • 「システム」が生産したてのユニットに戦力をもたせているからこそ、マップ勝利のために平気で使い潰せてしまう。
  • 「システム」を楽しむために、「物語」は創りだされる。
  • 「システム」で楽するために、「物語」は無視される。

 全ては土台である「システム」のなせるわざ。「システム」によって、「物語」が補完され完成する。土台である「システム」が壊れれば「物語」が破綻する。

 逆はない。ないんだこれが。

 納得いかないかもしれないけど、テキストストーリーも「システム」の内。AVGは選択肢とテキストストーリーが二人三脚で歩んでいく。テキストストーリー展開上選択肢がないことも含めて「システム」。「君が望む永遠」ってプレイヤーが任意に選択できたら成立しないよね。そうういうところをかなりプレイヤー側が補完して成立してる。

 有名なところだと、サンサーラ・ナーガ2のテキストストーリーのためにどれだけいろんな事に目をつぶって補完したプレイヤーが居ることか。あんまりにも目をつぶらなきゃならないことが多すぎると楽しいとは言いがたくなる。だからサンサーラ・ナーガ2は未だに賛否両論。せっかくの「物語」を「システム」が否定してくるんだ。

「システム」が「物語」を潰しにかかる

 個人差はあるが、プレイヤーの「物語」を補完しきれる許容は、ゲームシステムのメリット・デメリットで機械的に決まる。「物語」は、「システム」が許す限り「物語」として続く。しかしメリットやデメリットが上回った途端。これ、ゲームだし。と酔いが覚めたように「物語」を無視する。デスルーラだってするし、クリアに邪魔な味方をわざと殺す。

 ストーリーの都合で死ななくなってるキャラが居るとすれば、容赦なく盾にしたり使い潰したりすることは良くあること。

 つまり「艦これ」における艦娘の意図的なロストと言うのは、システムでメリットがあれば、皆やってしまう事なのだ。 

 えっ!? 自分はやらないよ!? と言いたい人は居るだろう。そりゃそうだ。艦これだと悲痛な旧日本軍を扱うコンテンツだからその感情は正しい。艦娘を意図的にロストすることは納得出来ないと思う。じゃあ聞こう。艦これって艦載機を消費するよね。

あれパイロット死んでるけどよくそんな残酷なことできるよな。

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 って言われたら困惑するだろう。そりゃそうだ。艦載機消費を避ける手段はゲームシステム上ないし、制空を取ることは非常に重要。「妖精さんだから大丈夫」「救助されてる」「艦娘とは違う」とかでフォローはするけど、やってることは艦娘のロストと同じとを言おうと思えば言えるのだ。でもこれでいや違うんだと言いたくなるのは当然のこと。これは「物語」の問題じゃなくて「システム」がそうなっていて、プレイヤーが楽しさのために補完している事なんだから。

戦場に女の子出すなんて最低だな。

 いや、でも、だって。色々言いたくははなるだろう。それを言っちゃあ、おしまいよ。どうしておしまいかって? 各人それぞれのメリット・デメリットの許容値が違うだけの話。「システム」が許しているなら天秤にかけてメリットがあるかぎりそれは「物語」を無視して行われる。こういうことは個々のプレイヤーの「物語」の押し付けにすぎない。程度の問題? その程度は誰が決めた? その正しさは誰が保証してくれる?

 こんな押し付け合いは、楽しくない。プレイヤー同士が罵ったり、メリットあるからとキャラをポイ捨てするようなことは、楽しいとは程遠いと思うんだ。「システム」が「物語」を侮辱する。さぁて、困ったもんだ。

 じゃあ、意図的なロストにペナルティを課そう。そう言う発想が出た人はいるだろう。ありがとう。やっと同じ結論に至ることができた。そう、やっぱりこの手の話を解決するのは、「システム」なんだ。

だからシステム帰っておいで

Back from the War, about 1918

 この問題の結論はここだ。各プレイヤーで意識の差異があるんだから、プレイヤーのモラルに問うて排斥しあうことは意味が無い。それは突き詰めれば自分一人以外のプレイヤーを全て排斥し終わるまで終わらない戦いでしかない。

 だからゲームの話をしよう。プレイヤーの話はやめよう。

  プレイヤー同士、意識の高いの低いの、トッププレイヤーだのゆとりだの、マゾだのおかしいのだの嫌なら辞めろだのいうのはやめよう。楽しい「システム」は何なのかの話をしよう。

 マナーと「システム」の混同はよく起きる。演習をわざと経験値が少なくなるようにする嫌がらせ編成も、これはゲームの話なんだから「システム」の話をしないといけない。

fpsjp.net

 メリットで機械的に決まれば人はたやすくそれをやってしまう。即物的なメリットやデメリットがあれば人は簡単に転ぶ。ソーシャルゲームの「ファントム オブ キル」では、いわゆる友軍ユニットが選択できるのだが、選択したユニットのプレイヤーにガチャが引けるポイントが届くようになっている。皆嫌がらせより、競って必要とされるようなユニットを置くわけだ。現金だね、ほんと。そんなにうまくいかないかもしれないけど。

それでやっとマナーの話ができる

 ゲームとプレイヤーを分けることができて、はじめてマナーの話ができる。

 艦娘のロストを嫌だと思うプレイヤー達に見せるために、わざとロストさせた様子を見せに来るのは、もうゲーム関係ない。単なるプレイヤーに対する嫌がらせだ。

 同じくらい、他のロスト前提のプレイの様子を、ロストを嫌なプレイヤー達に見せて、このような行為はうんぬんかんぬん言うのも、ゲーム関係ない。自分が不愉快になったからっておすそ分けする必要はない。ただの嫌がらせだ。正しいと思ってる分嫌がらせより質が悪い。

 そりゃ私だって一度艦娘を沈めた後は酷いことになったから言いたくもなる。それ以来絶対沈めないようにプレイしてるし、他プレイヤーの鎮守府で沈んでる艦娘を見るは楽しい物じゃない。

 でもそれは「システム」の話だからこう言う。ロストは構わないが、せめてレベルの意味を多少はくれないか、と。レベルがカンストした艦娘が1-1で小破するような事はもうやめにしてくれないか、と。

 

 みんなでしあわせになろうよ。